音のタイル張り舗道。

クラシックという銀河を漂う... 

さようなら、2019年。

今年、最後のupです。そして、令和元年が、終わります。
それにしても、凄い一年でした。一年で十年分もの時間が流れたてゆくような... 何と言っても、我々は、改元を経験した。時代が動く瞬間というのは、歴史の教科書の中に書かれていることだと思っていたけれど、それをライヴで目の当たりにするとは... 凄い。一方で世界はますますギスギスし、綱渡りのような毎日が続き、ニュースを追っていると疲れてしまう。それは、国内においても同じで、炎上に次ぐ炎上の日々は、懇切丁寧にメディアが油を注いで、もはや、遠い目... てか、そんな場合じゃないぞ!温暖化の驚異は、脅威に変わり、8月、とうとう40℃を記録し、10月、スーパー台風が襲う。これが、今、最も切実な21世紀のリアル、暗澹たる思いに... それでも、即位の礼の虹に希望を見出し、ラグビー・ワールドカップでは、世界各地から陽気な人々がやって来て、一緒に歌って、世界を結ぶ祝祭感に酔い、ワン・チームで壁を越えた日本代表に勇気付けられ... 良いことも、悪いことも、全てが特別で、強力で、それらが束になってやって来た驚くべき一年。新しい時代の始まりは、想像を越えたインパクト... いや、新しい時代が始まる、とは、こういうことなのかも...
そんな一年、音のタイル張り舗道。は、何を取り上げて来たか?生誕200年、スッペの楽しい音楽で始まり、前回、"うつろい"をセンチメンタルに響かせる『ばらの騎士』まで、相変わらずの節操無さで以って、中世から現代へ、ヨーロッパ中を巡り、アメリカへ、日本へも... そうしたタイトルの数々を振り返りながら、最も印象に残る1枚を選んでみたいと思います。

新年は、生誕200年、スッペオッフェンバックで景気良く祝い、その後、ミニマル・ミュージックで、少し気分を落ち着けてから、改めて、2019年にメモリアルを迎える作曲家と、ガッツリ向き合う。生誕200年、グヴィオッフェンバック、そして、生誕150年、プフィッツナー... 普段、あまり真正面から向き合うことない面々に注目すれば、これまであまり見えて来なかった部分が浮かび上がって来て、よりそれぞれの時代を掴めるように感じられる。そうした時代をつぶさに見つめれば、音楽は、常に時代のままならなさの中で生まれて来たのだなと、いろいろ考えさせられた(多くのクリエイターたちの苦闘を振り返ると、表現が不自由とか、甘ったれんな!と、つくづく思うのだよね... )。で、春、四旬節を迎えて、キリスト教徒ではないけれど、世俗音楽禁止を試みる。で、数々のオラトリオに、教会ソナタ教会コンチェルト教会シンフォニーと、実に多彩な音楽に触れ、かつての人々の、四旬節だからって音楽に手を抜かない気骨?みたいなものに感服。いや、音楽の頼もしさを噛み締める。そうして迎えた改元寿ぐ音楽をいろいろ聴きながら、改元を機に、改めて音楽のを訪ね歩き、久しぶりの古楽三昧... を経て、7月、何だか恒例となってしまっている、アメリカ独立記念日にはアメリカの音楽を、フランス革命記念日にはフランス革命に翻弄された音楽を聴く。夏、暑い盛りには、再びのミニマル・ミュージックで、クール・ダウン。してからの、シーズンの開幕に向けて、クラシック、ど真ん中、ドイツ―オーストリア鉄板で景気付け!さらに、バロック、ど真ん中、ヴィヴァルディに改めて注目。深まる秋には、チェロに、ヴィオラ・ダ・ガンバをじっくり聴いて... 2019年の終わりが見え出すと、ベルリオーズら、メモリアルの取りこぼしに慌てて向き合って... 生誕200年、スッペの『最後の審判』には、"ウィンナー・オペレッタの父"の硬派な仕事ぶり、その音楽性の底堅さに目を見張り、没後350年、チェスティのアリア集では、バロック・オペラの青春期のポップ感に魅了され... 慌ただしく、今日に至る。という一年、振り返って思うのは、まだまだ発見はある!知らないこといっぱい!だから、聴けば聴くほど新鮮!いや、クラシック、音楽史って、本当に尽きないなと... で、尽きない世界に浸っていると、より大きな世界が見えて来る気がする。これが、ムジカ・ムンンダーナ?いや、そういう感覚、21世紀に求められる気がする。

さて、話しが大きくなり過ぎたので、軌道修正...
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2019年、まず印象に残るのが、ゲルネが歌う、シューベルトの歌曲のシリーズ、名曲揃いのVol.7(harmonia mundi/HMC 902141)。ウーン、さすが、ゲルネ... その"さすが"で以って、今、改めて聴く、「魔王」に、「ます」の、ドイツ・リートの鉄板は、思い掛けなく魅力的で、惹き込まれる。そうして、浮かび上がる、シューベルトの早熟と、純粋と、希有な瑞々しさたるや!ウーン、震撼させられるものすらある。
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それから、アリス・沙良・オットが弾く、ムソルグスキーの『展覧会の絵』(Deutsche Grammophon/4790088)!いや、言葉に詰まります。どう、この演奏を語ればいいのか... いや、それこそが、彼女の音楽性にも思えて... この若さにして、ただならぬ葛藤を感じさせる音楽。その葛藤が、定番の名作に、ただならぬスケール感を与えて、"絵"を越えたイマジネーションを喚起する... アリス・沙良、何たる大器!
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21世紀、新しくも驚くべき感性は確実に育っている... アリス・沙良ばかりでなく、そう感じたのが、ロウヴァリ!彼が率いるイェーテボリ響とのシベリウスの1番の交響曲(Alpha/Alpha 440)は、20世紀の巨匠の時代と、デジタルな21世紀の感性が、屈託無く結ばれて、何物にも捉われず、音楽を解き放つ!解き放たれたシベリウスの魅力的な様たるや!今後のシリーズ、期待せずにいられませんよ。
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若手の一方で、巨匠もすばらしかった!すばらしいというより、もう最高!というのが、ネーメ・ヤルヴィ指揮、ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管によるスッペの序曲と行進曲集(CHANDOS/CHSA 5110)。スッペなんて... とは言わせない、まあビックリするほどの充実した、中身の詰まった演奏に、痺れる!てか、あのアゲアゲのナンバーの数々が、バリっと存在感を見せて、聴き手に迫って来たら、唸ってしまう。
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ピリオドのフルートの名手、コセンコによるピリオド・オーケストラ、レザンバサドゥールが、注目のソプラノ、ドゥヴィエルを迎えての、ラモーのオペラ名盤面集(ERATO/2564637284)も素敵だった... てか、今年、一番のお気に入り。フランスの、ラモーの、驚くべき色彩感に息を呑み、バロックなのに、そこから、スペクトル楽派のようなイリュージョンを体験し、ラモーって、凄い!と、今さらながらに、感服。

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そして、最も印象に残るのが、フィリップ・ジョルダン率いるパリ国立オペラ管の、ワーグナーの『ニーベルングの指環』の交響的抜粋(ERATO/9999341422)。えっ?パリのオペラ座が『指環』ですか?となりそうなのだけれど、パリのオペラ座だからこその、ある種、第三者的な視点で捉えるワーグナーが新鮮で、また、オペラハウスのオーケストラならではの、ドラマへの確かな配慮が感じられ、ハイライトとはいえ、2枚組、たっぷり余裕を持って展開されることも大きく、思いの外、地に足の着いた『指環』を聴かせてくれる。で、おもしろいのは、そうあって、かえって『指環』の壮大な物語が、ストンと腑に落ちるようで、2枚組、聴き終えての充足感が、何とも言えない。しかし、フィリップ・ジョルダンもなかなかおもしろいマエストロに仕上がって来ております!

えーっと、もうひとり気になったマエストロがおりました。今年まで、8年間、シアトル響を率いて来た、モルロー... 派手なコマーシャリズムに乗ることは無かったものの、シアトルという街のクレバーな雰囲気と、この街を取り巻く豊かな自然に裏打ちされたサウンドに、モルローが持ち込んだフランスの感性が起こしたケミストリー!アラスカのアダムズのビカム・デザート(cantaloupe/CA 21148)に、ベルリオーズのレクイエム(SEATTLE SYMPHONY MEDIA/SSM 1020)と、ある意味、両極端な音楽を聴いたのだけれど、この2つには、はっきりと底流する感覚があって、それが、それぞれの作品を際立たせて、仄かに共鳴しているようで、何より新鮮な輝きを生んでいたのが印象的だった。グローバリゼーションの時代、世界のオーケストラ・サウンドは均一化の一方だ。なんて、語られることがあるけれど、実は、静かに、しなやかに、ローカルな感性、それも洗練された感性が育まれているのかも... 21世紀のクラシックは、一皮むけて、新たな可能性が生まれようとしている気がする。アリス・沙良や、ロウヴァリといった新しい世代にも、何か、覚醒めいたものを感じる。いや、新しい時代は、確実に動き出している。未来を悲観するばかりが能じゃない。正直、何が起こるかわからない。けど、わからないところに、ワクワクする何かを見出せそうな気がする。クラシックも、まだまだ捨てたもんじゃないのだと思う。そう、2020年は、希望を持ちたい!良いこと、悪いことが拮抗した今年だけれど、来年はオリンピックもやって来ます。良いことが、悪いことに勝りますように... と、願いながら、今年はこの辺にて...

それでは、みなさん、良いお年を!