音のタイル張り舗道。

クラシックという銀河を漂う... 

"O dulcis amor"、17世紀、イタリアの女性作曲家たち...

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3月に入りました。そして、すっかり春めいております。分厚いコートを着なくてもよくなると、足取りも軽くなります。が、今年の春は、キリスト教徒でなくとも、四旬節。家で静かにしていることを余儀なくされ... また、そうなったことで、大混乱!ではありますが、事ここに至っては、そうせざるを得ない事態。しかし、悲嘆に暮れてばかりでは、明日は来ない... この大混乱を前にして、今こそ、我々の日頃の在り方(働き方やら、子育て支援やら、ありとあらゆること... CDCは日本にも必要だし、政治家含め、今、本物のプロフェッショナルが求められている!)を見直す時が来たのだと思います。てか、見直しの絶好の機会!ある意味、このウィルスによる試練は、新時代の春を呼ぶ嵐なのかも... 何より、四旬節の後には、必ず復活祭がやって来る!未だ20世紀に引き摺られている我々の社会が、21世紀のリアルと向き合い、真に21世紀的な在り方を模索し始めれば、間違いなくスマートな時代がやって来るはず。恐れずに前に進む。これこそが、福音!は、ともかく、音楽です。
明日、桃の節句!祝います。女性古楽アンサンブル、ラ・ヴィラネッラ・バーゼルの歌と演奏で、17世紀、イタリアの女性作曲家たちによる作品を集めたアルバム、"O dulcis amor"(RAMÉE/RAM 0401)を聴く。外に行かなくたって、春は、ここに、ある...

クラシックの作曲家、10人を挙げてください。そこに、女性は何人おりましたか?カッシアヒルデガルト・フォン・ビンゲンバルバラ・ストロッツィジャケ・ド・ラ・ゲールモンジュルーファニー・メンデルスゾーンクララ・シューマンエイミー・ビーチリリ・ブーランジェ、現代の作曲家は除いて、当blogがこれまで取り上げた女性作曲家は、10人に至りません。改めて数えてみると、愕然とします。やっぱ、クラシックの作曲家の男女比の極端さって、ちょっと異常... どうしてここまで極端なのだろう?不思議にすら思う。いや、本当は、もう少し、女性作曲家はいたんじゃないだろうか?クラシックにおける、作曲家=男、というある種の固定概念が、彼女たちの存在を封じ込めてしまってはいないだろうか?音楽史を丁寧に紐解くと、男性作曲家と伍して活躍した女性作曲家たちの存在が視野に入って来る。で、そうした史実は、往々にして忘れられがち... 女性作曲家たちは、いないのではなく、忘れ去られている?そんなことを思わせるアルバムが、"O dulcis amor"。カテリーナ・アッサンドラ(ca.1590-after 1618)、ヴィットリア・アレオッティ(ca.1575-after 1620)、フランチェスカカッチーニ(1587-after 1641)、バルバラ・ストロッツィ(1619-after 1677)、そして、今年、生誕400年、イザベッラ・ベルナルダ(1620-1704)... イタリアの、ルネサンス末から盛期バロック前夜までの5人の女性作曲家を取り上げる。てか、5人も?いるじゃん!となってしまう、"O dulcis amor"(いや、5人で喜んでしまえる現状の歪みが半端ないのだけどね... )。で、さらに興味深いのが、彼女たちは、どういう場で音楽を生み出していたか?フランチェスカカッチーニは、オペラ誕生に関わる巨匠、カッチーニ(ca.1545-1618)の娘。バルバラ・ストロッツィは、詩人で台本作家として活躍したジュリオ・ストロッツィ(1583-1652)の娘。その恵まれた環境を活かし、当時の音楽シーンで、堂々と才能を披露した2人の活動は、現代に通じるものがある。一方で、他の3人は、修道院で生活し、主に教会のための音楽を書いていた。いや、現代からすると、これは盲点... かつて、女性作曲家への道には、女子修道院という場があったわけだ(振り返ってみれば、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンという偉大な先人も... )。
ということで、まずはシスターたちの音楽に注目!そのひとり目、ミラノから南西に40Kmほど行った小さな町、ロメッロにある聖アガタ女子修道院の修道女、アッサンドラ(track.1-5)。"O dulcis amor"の1曲目を飾る、モテット「私たちの骨を埋める」の、明るく朗らかなソプラノの歌声が、ふわふわと大気に舞うような、春めく音楽に、ため息。1609年に出版されたモテット集からの1曲は、初期バロックの時代を意識させるメリスマに飾られて、花々しく、それでいて、同時代の初期バロックの男たちの音楽からすると、革新に対し先鋭的になるばかりでなく、ある意味、女性らしさを活かして、やわらかさこそを大切にする。そこに、女性作曲家としての矜持も感じられるのか?続く、2人目、フェッラーラの聖ヴィート女子修道院の修道女、ヴィットリア・アレオッティ(track.6-8)。1593年に出版された『マドリガーレの花環』から3曲が取り上げられるのだけれど、まず、教会音楽でないところが興味深い。いや、意外と自由だった?当時の女子修道院における音楽活動... 一方で、アレオッティの音楽は、未だ16世紀、バロック前夜の作品ということで、アッサンドラの後に聴くと、ルネサンスを見出し、古風。けど、その古風さに得も言えぬ上品さが感じられ、同時代のマレンツィオ(ca.1553-99)やジェズアルド(1566-1613)のマドリガーレが、ちょっと不潔に思えて来る(、なんて... 笑... )。そこから、一世紀ほど下っての3人目、ミラノから西へ40Kmほど行った街、ノヴァーラウルスラ修道院の修道女で、後に院長となる、イザベッラ・ベルナルダ。で、2作品、取り上げられるのだけれど、まずは、1693年に出版されたソナタ集からの、第12ソナタ(track.15)、ヴィオラ・ダ・ガンバ通奏低音によるソナタ... けして派手な音楽ではないけれど、確かな対位法を編み、盛期バロックを前にしての、それまでのバロックの実績がしっかりと聴こえて来る。その充実に魅了されずにいられない。続く、1700年に出版されたモテット「もうかねてから、主イエスよ」(track.15)は、少し古風な印象で始まり、初期バロックのヴィヴィットさを呼び覚ますようで、おもしろい。が、最後、次なる時代を予感させる麗しさがメロディーに表れて、盛期バロックへと飛翔するような盛り上がりも見せて、素敵。いや、女子修道院の音楽、侮れ難し...
一方、音楽シーンに出て活躍したフランチェスカ・スカッチーニバルバラ・ストロッツィの音楽もまた魅了される。フランチェスカカッチーニは、オペラ『アルチーナの島からのルッジェーロの救出』(1625)からのナンバー(track.9)が歌われるのだけれど、やっぱりオペラは花やか!女子修道院とはまた違う花やぎがある。で、父、カッチーニの古雅さを受け継ぎながら、父にまったく引けを取らない音楽を紡ぎ出し、さらに、その花やかさには、オペラを生み出した父親世代からの成長も聴き取れて、なかなか興味深い。そして、17世紀、ヴェネツィアの人気シンガー・ソングライターバルバラ・ストロッツィ... 1651年に出版されたカンタータ、アリエッタと二重唱曲集からの4曲(track.11-14)が歌われるのだけれど、初期バロックフランチェスカから、さらに先へと進んだバロックがそこには響いていて、フランチェスカの後だと、バルバラならではの表情に富む音楽(語りながら歌った初期バロックに対し、音楽そのもので語らせ得たバルバラの音楽性が光る!)がより際立つようで... 特に、最後、「恋するヘラクレス」(track.14)の、バルバラ特有の熱っぽさには惹き込まれる。当時、彼女が一世を風靡したのも納得... それにしても、女子修道院には無い濃密さたるや!で、女子修道院の謙虚さ、しとやかさから、音楽シーンで活躍する肉食系シンガー・ソングライターまで、17世紀、バロック、イタリア女子の幅に感心させられる。いや、それぞれに、それぞれの音楽を響かせていたわけだ。ますます、侮れ難し!
そんな、"O dulcis amor"を聴かせてくれる、ラ・ヴィラネッラ・バーゼル... リコーダーに、ヴィオラ・ダ・ガンバ鍵盤楽器(ヴァージナル/オルガン)、そして、キタローネによる4人の器楽奏者と、歌手(ソプラノ)からなるアンサンブルは、ソプラノを歌うトローシッツのやさしく明るい歌声に導かれ、ふんわりと、たおやか。それは、女性アンサンブルだから女性らしい... と、安易に語ることはできない、男性では至れない、"ふんわり"と"たおやか"であって、手堅い演奏をベースにしながら獲得できる表現であり音楽性。クラインのヴィオラ・ダ・ガンバは、思いの外、渋いし、ヴィンターが弾くヴァージナルは、ちょっとドスが効いているし、そういう点では、しっかりと地に足の着いたアンサンブルが織り成されるのだけれど、ちょっとした余韻にやわらかさが感じられ、それらが全体にやさしさを醸し出す。それが、ルネサンス末から盛期バロック前夜まで、イタリアの女性作曲家たちの音楽をナチュラルに捉え、共鳴して、芳しさを生み出す。しなやかに自らの音楽を紡いだ修道女たち、音楽シーンでバリバリ活躍したフランチェスカバルバラと、それぞれの個性を丁寧に響かせながら、"O dulcis amor(甘美なる愛)"として、さり気なく甘美なるものを漂わせる妙... ああ、これって、春の空気感だわ。穏やかさの中に、時折、花の匂いがして来る... そうして、やさしい気持ちになる、あれ。

O dulcis amor La Villanella Basel

カテリーナ・アッサンドラ : 私たちの骨を埋める 〔二重唱、三重唱のモテット集 Op.2 から〕
カテリーナ・アッサンドラ : アヴェ・ヴェルム・コルプス
カテリーナ・アッサンドラ : この日こそ 〔二重唱、三重唱のモテット集 Op.2 から〕
カテリーナ・アッサンドラ : われは野の花
カテリーナ・アッサンドラ : おお、うるわしき最愛のイエス 〔二重唱、三重唱のモテット集 Op.2 から〕
ヴィットリア・アレオッティ : 今や美しき夜明けが 〔『マドリガーレの花環』 から〕
ヴィットリア・アレオッティ : わが心、なぜにひたすら涙するのか 〔『マドリガーレの花環』 から〕
ヴィットリア・アレオッティ : この燃えさかる唇が 〔『マドリガーレの花環』 から〕
フランチェスカカッチーニ : もっとも楽しげな、もっとも美しき人に 〔オペラ 『アルチーナの島からのルッジェーロの救出』 から〕
フランチェスカカッチーニ : ほっといて、一人にしておいて 〔『ムジケ』 第1巻 から〕
バルバラ・ストロッツィ : 偽り多き恋人 〔カンタータ、アリエッタと二重唱曲集 Op.2 から〕
バルバラ・ストロッツィ : ねむたげな愛神 〔カンタータ、アリエッタと二重唱曲集 Op.2 から〕
バルバラ・ストロッツィ : どうしてそんなに憂鬱そうなの 〔カンタータ、アリエッタと二重唱曲集 Op.2 から〕
バルバラ・ストロッツィ : 恋するヘラクレス 〔カンタータ、アリエッタと二重唱曲集 Op.2 から〕
イザベッラ・レオナルダ : 第12 ソナタ ニ短調 〔器楽のための1声、2声、3声、4声のソナタ集 Op.16 から〕
イザベッラ・レオナルダ : もうかねてから、主イエスよ 〔器楽伴奏を伴う独唱モテット集 Op.20 から〕

ラ・ヴィラネッラ・バーゼル
ハイケ・ピヒラー・トローシッツ(ソプラノ)
クラウディア・ナウハイム(リコーダー)
イレーヌ・クライン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
メヒティルト・ヴィンター(ヴァージナル/オルガン)
ペトラ・ブルマン(キタローネ)

RAMÉE/RAM 0401