音のタイル張り舗道。

クラシックという銀河を漂う... 

シューベルト、遠くへの渇望。

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これもまた、旅なのかもしれない。冬の旅、ではなくて、シューベルトアイスランドへの、あるいは、フォークロアへの旅... アイスランド出身のテノール、クリスチャンソンが、シューベルトの歌曲とアイスランドの民謡を並べるという、大胆な1枚を聴いてみようと思うのだけれど、元来、並ばない音楽が並んで生まれるケミストリーは、実に刺激的で、様々な想像を掻き立てる。シューベルトは、南への憧れを、その音楽に、様々に籠めている。君よ知るや南の国... ミニョンの歌(ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』から採られた詩、故郷、南の国から離れたミニョンが、その故郷の美しい情景を想って歌う... )は、まさに象徴的。で、ミニョンにシューベルトの姿が重なる?アルプスを越える経済力も行動力も無かったシューベルトだったけれど、知らない南の国を夢想しながら書いた音楽、例えばイタリア風序曲だとかを聴いていると、何だか切なくなってしまう。音楽の中で旅したシューベルト... そのシューベルトが、南ではなく北へと旅したら、どうだったろう?と、夢想しながら...
ベネディクト・クリスチャンソンのテノール、アレクサンダー・シュマルツのピアノで、遠くへの憧れを歌う、アイスランド民謡、そして、シューベルトの歌曲を、大胆にひとつにまとめたアルバム、"Drang in die Ferne"(GENUIN/GEN 19645)を聴く。
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フェルドマン、初期ピアノ作品集。

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スキー場の雪不足のニュースに、温暖化の影響をひしひしと感じる今日この頃ではありますが、陽が落ちれば、やっぱり、寒い。夜、足元からの冷え込みをジーンと感じれば、やっぱり冬だなと... という中、ピアノをフューチャーしております。冬はピアノ... そのクリアな響きを、冬の空気感と重ね合わせて、この冬に、集中的にピアノを聴く。で、前回、ピリオドのピアノで、淡々と、シューベルトのピアノ・ソナタを聴いたのだけれど、今回は、さらなる気温の低下を招く?現代音楽のピアノ。いわゆる"ゲンダイオンガク"の抽象を、ピアノというマシーンで奏でると、より研ぎ澄まされた世界が広がるようで、それは、どこか、冬の景色に似ているのかなと... いや、振り返ってみると、ここのところ、イカニモな"ゲンダイオンガク"(戦後「前衛」的な... )を聴いていない気がして... 避けているわけではないのだけれど、広過ぎて、浅過ぎる、当blogの関心の散漫さゆえに、ディープな"ゲンダイオンガク"に、なかなか迫れない?ならばと、聴きます。冬はピアノ... で、戦後「前衛」。
アメリカの戦後世代を代表する作曲家のひとり、フェルドマンの、静かに研ぎ澄まされたピアノによる抽象... 現代音楽のスペシャリスト、ドイツのサビーネ・リープナーによる、フェルドマンの初期ピアノ作品集、2枚組(WERGO/WER 6747 2)を聴く。
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シューベルト、18番と21番のピアノ・ソナタ。

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冬はつとめて... 清少納言は、冬の美しさを象徴する一時に、早朝を挙げている。なかなか布団から出るのが難しい時間帯だけれど、そのキーンと冷えた空気、澄んだ大気の清浄さは、確かに、冬なればこそ... そういうクリアさ、嫌いじゃない。ということで、春は曙、秋は夕暮れ、みたいに、四季を楽器で語ったら... 昨秋のチェロヴィオラ・ダ・ガンバに続いての冬。冬はピアノ... 冷徹なまでに、クリアに音階を刻むことのできるマシーンは、どこか冬の佇まいに通じる気がする。もちろん、ピアノはどんな季節だって自在に表現できる。が、ポンっと、打鍵して広がる響きの明瞭さは、冬の大気の清浄さを思わせて、そういう他の楽器では味わえないクリアさに触れていると、何だか耳が洗われるような... いや、このあたりで、ちょっと、洗われた方が良いのかも... 年末、盛りだくさんな歌モノが多かったし... いや、ちょっと、じっくり、ピアノと向き合ってみようかなと...
で、シューベルトハンガリーの巨匠、アンドラーシュ・シフが、1820年頃製作のフランツ・ブロードマンのピアノで弾く、シューベルトの18番と21番のピアノ・ソナタ... 楽興の時、即興曲なども収録された2枚組(ECM NEW SERIES/4811572)を聴く。
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"spaces & spheres"、直観の音楽。

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フリー・ジャズって、"ゲンダイオンガク"みたいな印象を受けるのだけれど、それっておもしろいなと思う。ジャズたらしめて来た型枠からフリーになると、"ゲンダイオンガク"っぽく響くというね... そもそも、現代音楽が、難解な"ゲンダイオンガク"の様相(もちろん、一概には言えない... )を呈するのは、音楽史が積み上げて来たロジックをひっくり返したり、何したり、より高度に複雑怪奇になったがためであって、つまり、フリーの対極にあるわけで... それが、フリーとなったジャズに似ているとは、一周回って、極めて近い場所に音楽が成立しているということか?改めて、フリー・ジャズと現代音楽を並べてみれば、ロジックを極めることと、フリーであることの表裏一体感が、もの凄く刺激的に感じられる。それでいて、その表裏一体に、音楽の本質が窺えるようで、感慨すら覚えてしまう。だったら、この際、フリー現代音楽をやってみたら、どうなるだろう?ロジックを介さず、フリーに、インプロヴィゼーションで、現代音楽というフィールドで、新たな音楽を創出する。てか、ロジックを手放した現代音楽は、もはやフリー・ジャズか?いや、もはや何物でもないのかもしれない... そう、現代音楽の、その先にあるサウンドは、突き抜けたニュートラル。そんなアルバムを聴いて、お正月気分を浄化してみようかなと...
マルクスシュトックハウゼン(トランペット/フリューゲル・ホルン)、タラ・ボウマン(クラリネット)、ステファノ・スコダニッビオ(コントラバス)、ファブリツィオ・オッタヴィウッチ(ピアノ)、マーク・ナウシーフ(パーカッション)によるインプロヴィゼーションを、ワルター・クインタスが編集したアルバム、"spaces & spheres intuitive music"(WERGO/WER 67642)を聴く。
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ベートーヴェン、ミサ・ソレムニス。

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2020年は、ベートーヴェン・イヤー!ということで、"新発見"とか、"世界初録音"とか、今からいろいろ期待してしまうのだけれど... そうした矢先、昨年末、ベートーヴェンが、10番目の交響曲として構想し残したスケッチを基に、AIによって"第10番"を作曲する、というニュースがありました(完成は、春の予定... )。いや、ひばりさんに負けられない... てか、合唱付きを越えてゆく交響曲(否が応でもハードルは上がる!)として、どんな音楽に仕上がるのか、興味津々。聴力がどんどん失われて行く晩年の楽聖は、誰も辿り着けないような、独特な音世界の中に在ったわけで、最後の3つのピアノ・ソナタなどを聴けば、その突き抜けた音楽の在り様に、どこか作曲という行為さえ越えてしまったような印象すら受ける(なればこその"楽聖"なのだと思う... )。AIは、この独特さをどう学習するのだろう?18世紀、ウィーン古典派の伝統を、しっかりと受け継いでいるベートーヴェンの音楽(初期)。ここまでならば、学習は容易。18世紀から19世紀への激動の時代(フランス革命からのナポレオン戦争からの保守反動... )をサヴァイヴし、ロマン主義的な方向性に個性を見出したベートーヴェン(中期)。これもまた、学習するのは、そう難しいものではないと思う。が、ロマン主義そのものへと向かうことはなかった晩年(後期)... 外からの音と断ち切られて至った境地は、学習して辿り着けるだろうか?いや、理論や様式を越えた地平を、AIが見つけることができたならば、楽聖ベートーヴェンの真髄が、詳らかになるのかもしれない。
ということで、これもまた真髄、と思う作品... フィリップ・ヘレヴェッヘ率いるシャンゼリゼ管弦楽団の演奏、コレギウム・ヴォカーレの合唱、マーリス・ペーターゼン(ソプラノ)、ゲルヒルト・ロンベルガー(メッゾ・ソプラノ)、ベンジャミン・ヒューレット(テノール)、デイヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バリトン)のソロで、ベートーヴェンのミサ・ソレムニス(PHI/LPH 007)を聴く。
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明けました、2020年。

明けました、おめでとうございます。本年も、どうぞ、よろしくお願いいたします。
さてさて、年を跨いで風邪を引いてしまいました。何と言う年明け!という中での、令和ニ年、最初のupであります。ということで、とうとうオリンピック・イヤーを迎えるわけです。ワクワクします。いや、不協和音に充ち満ちた今の世界を見渡せば、商業主義が跋扈し、見掛け倒しの選手ファーストであったとしても、ひとところに世界中の選手が集うことの意義の大きさは計り知れない気がします。ラグビー・ワールドカップのあのキラキラとした日々を振り返れば、なおのこと... なればこそ、2020年、より大きな視点で、期待せずにはいられません。すばらしい大会となりますように... 一方、クラシックは、何と言ってもベートーヴェン・イヤーでございます。生誕250年のメモリアルを迎えるベートーヴェン(1770-1827)!こちらもワクワクしてしまいます。というのも、ひとり好きな作曲家を挙げなさい、と言われたら、いろいろ思案しながらも、ベートーヴェンと答えてしまうだろうから... そう、ベートーヴェンが好き!やっぱり期待せずにはおられません。どんな一年となるのか、楽しみ!
ではありますが、本日は、ベートーヴェン以外のメモリアルを迎える作曲家たちに注目してみたいと思います。いや、これがまたなかなか興味深い面々が揃っておりまして... 2020年のクラシックをより豊かなものにするために、ちょっとマニアックに攻めます。
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さようなら、2019年。

今年、最後のupです。そして、令和元年が、終わります。
それにしても、凄い一年でした。一年で十年分もの時間が流れたてゆくような... 何と言っても、我々は、改元を経験した。時代が動く瞬間というのは、歴史の教科書の中に書かれていることだと思っていたけれど、それをライヴで目の当たりにするとは... 凄い。一方で世界はますますギスギスし、綱渡りのような毎日が続き、ニュースを追っていると疲れてしまう。それは、国内においても同じで、炎上に次ぐ炎上の日々は、懇切丁寧にメディアが油を注いで、もはや、遠い目... てか、そんな場合じゃないぞ!温暖化の驚異は、脅威に変わり、8月、とうとう40℃を記録し、10月、スーパー台風が襲う。これが、今、最も切実な21世紀のリアル、暗澹たる思いに... それでも、即位の礼の虹に希望を見出し、ラグビー・ワールドカップでは、世界各地から陽気な人々がやって来て、一緒に歌って、世界を結ぶ祝祭感に酔い、ワン・チームで壁を越えた日本代表に勇気付けられ... 良いことも、悪いことも、全てが特別で、強力で、それらが束になってやって来た驚くべき一年。新しい時代の始まりは、想像を越えたインパクト... いや、新しい時代が始まる、とは、こういうことなのかも...
そんな一年、音のタイル張り舗道。は、何を取り上げて来たか?生誕200年、スッペの楽しい音楽で始まり、前回、"うつろい"をセンチメンタルに響かせる『ばらの騎士』まで、相変わらずの節操無さで以って、中世から現代へ、ヨーロッパ中を巡り、アメリカへ、日本へも... そうしたタイトルの数々を振り返りながら、最も印象に残る1枚を選んでみたいと思います。
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